小千谷縮と自治【2024-常設展示 近世】
おぢやちぢみとじち 2024 じょうせつてんじ きんせい小千谷縮は、小千谷を代表する伝統工芸品であり、国指定・世界無形文化遺産の文化財技術の結晶です。しかしその短い言葉だけでは語り尽くせない小千谷の「自治」を生み出すきっかけとなった小千谷縮の話をさせてください。 【生まれ方】 小千谷縮は、1600年代後半に堀次郎将俊によってそれまで作られた麻織物製作技術を改良することにより生まれました。撚りや湯もみなど固有の技術により、「シボ」という独特のシワが全体に広がることが特徴です。 【売り方】 小千谷縮は江戸時代を通じて、独特な販売方法を行っていました。それが「見本帳」を用いた番号管理と需要の把握でした。見本帳は小千谷縮の端切れをたくさん貼り付けた言わば≪カタログ≫であり、消費者はこの番号を問屋や商人に伝えることで、数年後には手に届く仕組みになっています。 今では当たり前なことですが、当時としては画期的な販売方法でした。なぜこのように需要を把握する必要があったと思いますか。実は作り手と大きな関係があります。 【作り方】 小千谷縮は50くらいの工程によって製作されています。この工程を小千谷(江戸時代であれば、中魚沼郡~北魚沼郡にかけて)の住民が文字通り「総参加」で製作しました。小千谷の冬は雪にとざされることにより、生産活動を行うことができません。そこで屋内を主体としてできる織物を製作するのですが、この作業に老若男女すべての人々が携われるように工程を調整してあります。男性であれば外で「雪ざらし」「湯もみ」、体があまり多く動かない人であれば「糸づくり」、元気な女性であれば「いざり機織り」など、一人一人の個性や体格にあわせ、誰一人欠くことのない製作方法を実現しました。 この製作方法で大切になることが、需要に応えることになりますが、見本帳により事前に把握することで、年間約10万反を安定して製作して、まちに莫大な利益をもたらすこととなります。 この作り方・売り方を自主的に作り出すことにより、江戸時代では全国的に例の少ない「自治都市」として町を運営することができました。 【残し方】 小千谷縮の技術は、手で行うしかできない工程がいくつかあります。例えば「糸づくり」。小千谷縮の糸はとても細くさかれた苧麻の繊維をつなぎ合わせたものです。この「細かくさく」ことは、人間にしかすることができません。むしろ細かくさくことで本当に上質な小千谷縮となります。織も湯もみもすべて人間でしか作ることのできない、個性あふれるこの世に一点しかない織物となるのです。この個性を深く丁寧に観察することで、多くの工程に多くの職人の汗と技術を感じることができます。これこそが小千谷縮が今でも残っており世界中の人に大切にされている要因なのです。